俺たちのバンドは0.5点

20代の頃、ブルーハーツの曲を聴き胸が張り裂けそうになるほどの衝撃を受けた。数日後、10歳年上の友人と飲んでいたとき、いきなり話を振ってみた。

「ブルーハーツって知ってる?」「ああ、武道館に聴きに行ったよ」「ほんと!じゃあバンドやろうよ。Yさんドラム買って。俺エレキ買うから」「いいよ」

中抜きの会話で成立してしまった。どう考えてもドラムを買って練習するよりもエレキの方が楽なのに。Yさんはドラム教室に通ってくれて、他のメンバーも集まりバンドがスタートした。

そんなタイミングで、TBSでイカ天(三宅裕司のいかすバンド天国)という番組が始まった。三宅裕司氏が司会で、毎回10組のアマチュアバンドが登場。萩原健太氏、伊藤銀次氏、吉田建氏、ラッシャー木村氏などが審査し、イカ天キングが決まる。勝ち進み方式で、5回勝ち抜くとグランドイカ天キングとなった。この番組は、BIGINやたま、FLYING KIDS、JITTERIN’JINN、人間椅子などを輩出している。

とても人気のある番組だったので出られるわけないと思っていのだが、意外なことにオーディションのテープ審査が通り出場することができた。お客様がみえたときに粗茶を振る舞わせていただくような「おもてなしパンク」というコンセプトだった。結果は散々。他のバンドとの差は歴然。勝ち進んでいたマルコシアスバンプのFAKEという曲は素晴らしかった。

それはともかくいか天に出られたのだから、他のコンテストにも出て自分たちの実力を試してみようという話になり、エントリーしてみた。結果は・・・

コンテストが終わった後に審査員の席にゴミのように置いてあった審査評を見たのだが、10点満点の表の0と1の間にわざわざ鉛筆でこきたない線が引かれていて、それが自分たちの得点だった。

0.5点。いくらなんでも低すぎる。普通はそこでめげたりするのだろうがこのバンドは違った。「日本は俺たちには小さすぎる。世界に出よう」すかさずYさんは言った。「おじさんがチンタオに顔が利くから、チンタオツアーができないか聞いてみるよ」

しばらくしてYさんは「できるみたいなんだけど、共産主義の国だから友好みたいな形になっちゃって、こっちが何かしてもらったら向こうが日本で何かやるときにいろいろめんどうみてあげなきゃならないらしい」

大変そうだったので、バンドの海外ツアーの話はなくなった。俺たちの実力だが、正直にいうと演奏が途中でつっかえて止まってしまうこともあるような愛すべきバンドだった。

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