そいつは声で窓ガラスを割れると言った

高校の時、顔見知りだが特別仲がいいわけでもない隣のクラスのヤツが放課後俺のところにやってきた。手にはギターを持っている。俺だけがいた教室の前の机に座り、いきなり中島みゆきさんの曲の弾き語りを始めた。

なんなんだと思いながら仕方なく最後まできいていた。歌い終わるとそいつが言った。

「俺は声で窓ガラスを割ることができる」

眉唾であったが、万が一そいつが窓ガラスを割ってしまったら自分まで同罪で怒られそうだったので、煽ることをやめ、そうか、とだけ返した。

それから何十年もたつが、たまに思い出してはほんとうだったのか気になる。物には共振周波数がある。それがガラスの周波数と一致した場合、ガラスが大きく振動するらしい。その周波数を声でキープし続けられれば、薄いワイングラスだと割れる場合がある。しかし、窓ガラスを割ることは現実的に難しい。

ヤツは現実離れした男だったのか。このままいくと今後会うことはなさそうだが、ほんとに割れるなら割ってみてほしい。うちの窓ガラス以外を。

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